最近の研究室のテーマ

 

 以下のようなテーマが研究室で最近進行している、あるいはしていたものです.誰もやっていない,誰も注目していないテーマへの参入を常に狙っています。流行のメインストリームに乗った研究にはあまり興味がありません.現状のパラダイムを新しい観点から反証する研究も志向します。院生やゼミ生がさらに新しい分野・テーマを提案してくれることを待望します。

 

[外乱姿勢制御]

 2016年から始めました。外乱に対する筋の反応の初期(30 ms)は足部筋伸長由来の反応であるが、100 ms以降は体幹動揺由来であるという事を最近報告しました(Hiraoka et al. 2020)。また、外乱の時間・方向予測による姿勢制御反応への影響は外乱後100 ms以降の長潜時反応に限定されることも報告しています(Matsuoka et al. 2020)。

 

[歩行開始における運動制御]

 2003年ころから断続的に続けている研究です。特に歩行開始時の皮質脊髄路や運動ニューロンプール興奮性動態、歩行開始時のcenter of pressureの変位におけるパーキンソン病患者さんの特異的な事象を観察・報告してきました。パーキンソン病患者さんのすくみ足には予測的姿勢制御の機能不全が一部関与することは先行研究の知見で明らかですので、特にこの制御に注目した研究をしています。

 

[運動における四肢選択決定プロセス]

 ヒトは常に意思決定をしながら日常生活を送っています。運動においても右と左どちらの肢を選択して運動に供するかは重要な意思決定のプロセスになります。2016年には、左右の聴覚入力が上肢リーチおよび歩行開始時の振出側選択に関与することを報告しました(Tani et al. 2016, Hiraoka et al. 2016)。また、歩行開始時の下肢選択には左後頭頂領域が関与することも報告しました(Hiraoka et al. 2020)。

 

[左右下肢運動の協調制御]

 ヒトの運動においては左右肢運動の協調は重要です。特に下肢の場合、歩行や四つ這い運動などの移動運動において左右運動のタイミングの協調が不可欠です。この左右協調について運動ニューロンプールや皮質脊髄路の興奮性変調を指標にその制御機序を探求しています。移動運動は中枢パターン発生器(central patter generator)が運動出力にかかわると考えられていますので、間接的にですがこれら研究はその機構を観察する研究でもあります。

[左右上肢運動の協調制御]

 左右上肢運動の協調は、主に移動運動でそれが必須となる下肢運動の場合とは異なり、巧緻動作やリーチ動作・把握運動時にその機能が求められます。したがって、左右上肢運動の協調は下肢のそれと異なった制御機構が関与すると考えられています。研究室では、左右皮質を連絡する脳梁の機能に着目し、皮質間抑制機構(interhemispheric inhibition)などの脳梁を介した脳のしくみと左右上肢運動の協調の関連について研究しています。

 

[リズミカル運動時における上下肢運動間の協調制御]

 ヒトにおいても四足動物の名残として、リズミカル運動時に上下肢間の協調が生じます。研究室では1999年と2001年に上肢リズミカル運動時のヒラメ筋H反射の位相依存的な変調を報告しました。方法論的には未熟でしたが、2004年以降のZehrらの研究の先駆けになりました。それ以降、断続的にこのテーマの研究は行っています。

 

[眼球運動と上肢運動制御の関係]

 上肢動作においては目と手が協調して動作することはよく知られていますが、その制御機序についてはまだ明確になっていない部分が多くあります。研究室ではこの分野にも着目し、眼球運動中枢と運動下降路の主要な部分を成す皮質脊髄路の相互作用を研究しています。眼球運動中枢からの眼球運動命令は手運動命令を実行する皮質脊髄路に一部入力している経路がある、あるいはその逆もありうるという仮説を検証する研究です。わたしの知る限りにおいて、眼球運動中枢と皮質脊髄路相互作用の研究をしている研究室は、現時点で本研究室以外にやっているのはイタリアの1グループのみですので、希少価値のあるフロンティアなテーマと自負しています。

 

[小脳の運動制御への関与]

 研究室では、追従運動中に小脳刺激によって手指に長い潜時の運動反応が生じることを確認しました。小脳の活動を高い時間解像度で観察することは現在でも難しい課題ですが、この長潜時運動反応はそれを可能にすることができる指標になりうるかも知れません。この運動反応の小脳運動制御実験への応用を検討することは研究室のひとつの課題です。

 

[心的プロセスが運動制御に及ぼす影響]

 一次運動野およびそれ以下のプロセスは言わば運動企画・実行プロセスの出口です。運動出力を決定するプロセスの多くは一次運動野より前段階で生じています。その前段階のプロセスには高次脳機能≒心的プロセスが関与することは間違いありません。このテーマについては、研究室ではこれまでいくつかの知見を得てきました。高所恐怖が姿勢制御時の皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響、視覚注意(attention)が僧帽筋皮質脊髄路に特異的に影響する現象(Tanaka et al. 2013)、運動イメージによる皮質脊髄路興奮性増大が少なくとも一部、筋のmicro-activityにより説明できる(Oku et al. 2013)という知見などです。

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